ある日のミーティングで、『牛乳は虫歯の原因になる、ならない?』が話題になりました。
院長:「あ、それに関しては、歴史的に有名な研究があるんだ。
牛乳(乳糖)を含んだ食品を食べてもショ糖を取らなけ
れば齲蝕はほとんど起こらないんだ。」
DH :「え、乳糖ではpHが下がらないのですか?」
院長:「うん、いい質問だね。pHが下がると虫歯が出来る。
その指導はいいよ。ただ、プラークの量や質によって
pHの下がり方には個人差があるし、唾液の量や質に
よってもpHの回復時間が異なることもわかるよね。」
DH :「個人差があるっていうことですね。」
院長:「その通り。同じプラークの量でもプラークの質、つまり
ミュータンスレベルには差があるからリスク試験をやっ
て個別指導することが大切なんだね。」
DH :「あそうか、ミュータンスレベルによって同じ牛乳でも
人によってリスクが違うってことですか?」
院長:「ピンポーン!大正解。
だから、pHの実験するより実際の人間で
本当に虫歯が出来たか という証拠探しが
大切なんだね。」
DH :「そんな証拠なんてあるんですか・・・」
院長:「それがあるんだよ。(^_^)
先天性果糖不耐性の人がいるんだ。その人は、厳密な
食事制限が加えられていて、ショ糖は1日2.5g程度な
んだ。主として牛乳、パン、オートミール、スバゲティー、
米、ジャガイモなど、デンプン、ブドウ糖、乳糖、ガラク
トースを含んだ食品を食べているだ。そういう人の虫歯を
調べたら、30才でもカリエスフリーの人が60%もいて、
DMFも平均で2.1だったんだ。(Newburn. E 1983)」
DH :「その人達は、歯ブラシしてきれいな状態だったんでは?」
院長:「ところが違うんだ。対照者と比較すると、
plaque Index, OHIが 1.2 vs 1.2, 1.7 vs 1.8と
差が無いんだ。対照者のDMFは14.5だよ。」
DH :「え!なんでそんなに差があるの・・・」
院長:「それがプラークの質の違いってことさ。
その人たちからミュータンス菌が検出されたのは
26%だったのに対して、対照者は72%だったんだ。」
DH :「なるほど、やっとわかりました。同じプラークの量でも
質が違うとリスクが違う。プラークの質ってミュータンス
レベルが関係している。」
院長:「そして、ミュータンスの質も関係あるよね。」
DH :「先生が大好きなキシリトールによるミュータンス・
コントロールってやつですね。」
院長:「さすが、**さん。読みが鋭くなったね(^_^) 」
<補足:Q&A>
Q1.
プラ―クは基本的には乳糖を代謝して酸を産生出来ない(しない)が、乳糖を摂取しつづけると適応して代謝が出来るようになり酸を産生するようになると聞きました。これって根拠はないのでしょうか?
A1.
もちろん乳酸からも酸を産生しますよ。(^_^)
ミュータンス菌の糖輸送経路(PTS)には、乳糖(ラクトース)の取り込みにも対応していますので。(Jacobson G.R. 1989)
他の菌の事は分かりませんが、乳糖添加により,プラークのpHは約 5.1まで低下しています。(Neff D 1967)
pHの低下に影響するのは、糖の摂取量よりもプラークの量であり( Ikeda)、齲蝕発症には、プラークの質の方がより大きく影響することはいうまでもありません。
Q2.
カリエスリスク判定の手引きのP48に「ある種の食品は歯垢中のpHによい影響さえ与える。例えばチ−ズ製品や・・・・とありますがこの様な食品類でもやはり摂取を続けるとSMが増えて来る原因となる可能性はあるのでしょうか?
A2.
本が手元に無いので本の内容についてはコメントできませんが、
ミュータンス菌は、糖以外は代謝出来ません。つまり、栄養源になりません。ヒトとは違って、タンパク質(アミノ酸)や脂肪があってもミュータンス菌は増殖することは出来ませんね。
<古典研究>
牛乳とう蝕との関係を考える上で興味深い研究(古典)があります。
Glass R.L. のセリアルについての研究
Diet and dental caries: dental caries incidence and the consumption of ready-to-eat cereals.
J Am Dent Assoc. 1974 Apr;88(4):807-13.
粘着性の甘いお菓子であるセリアルと甘くないセリアルを977名の子供に(7〜11才)2年間好きなだけ与えました。
母親は子供の希望する方のセリアルを与え、量と種類、与え方が2年間記録されました。そして、毎年、視診とX線検査によりう蝕検査を行いました。
その結果、多くの対象者は、甘いセリアルの方を消費したが、消費量とう蝕発症に統計的な関連がみとめられませんでした。
Glass RLは、この結果は、砂糖とう蝕との関連を否定するものではなく、大部分のセリアルが食事時に食べられ、94%の子供が同時に牛乳を一緒に飲まれたことが、歯に停滞しやすい性質のセリアルの特性を弱めたのかもしれないと考察しています。
そして、う蝕誘発性は、食品の砂糖含有量よりも、食べる時間、食品の形状などが重要であろうと結論づけています。
もちろん、就寝前に砂糖入りの甘い牛乳を飲むのは、よくありませんね。(^_^)
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