李先生講演会  医療過誤事始メ   by T.Saito 07/17/01

7月16日に東京医科歯科大で李啓充(ハーバード大学助教授)の講演会がありました。

李先生は、米国の医療問題に詳しく有名な著書には、
 「アメリカ医療の光と影」
 「市場原理に揺れるアメリカの医療」
などがあります。

講演は、医療過誤の実例とその際の取り組みを1つづつ
淡々と解説されたのですが、真実がもつ重みでしょうか、
下手なドラマ以上に感動させられました。

事例として、「市場原理にゆれるアメリカ医療」から、3つ、
1、ベン・コルブ君7歳のエピネフリン誤投与による死亡事故
2、心室中隔欠損の生後2ヶ月の男児ホセ・マルティネスへのジゴキシン過剰投与死亡事例
3、糖尿病患者での左右取り違え下肢切断事例 

訳本「インフォームド・コンセント」から
4、ボストン・グローブ紙医療担当記者への抗がん剤過剰投与死亡事例
(世界的に有名なダナ・ファーバー癌研究所での過誤)が紹介されました。

講演のキーワードは2つ

1。Who?  ではなく Why? 
2。医療文化を変える Risk Management から Safety Improvement

誰に責任があるのか追求して刑事訴訟を起し、個人断罪しても
何も生まれない。別な人間ならその事故は起らなかったのか?

本当に個人的な問題なのか?個人を責めないと気がすまない文化に問題はないか?

根本原因分析(Root Cause Analysis) 

何故、そういう事故が起きたのか?
徹底的に(システム上の)原因を追求する事が再発防止へ取り組む姿勢が大切。

Wrong Site Surgery(左右間違え手術)などは、報告されただけで10年間で225件あり、この数は30年間医師を続けるとすると4人にひとりの医師は経験する数だそうです。

これを個人のミスとして刑事訴訟することが再発防止になるのか?

ミスを隠蔽しかばい合う、個人を責める医療文化そのものを変えなければいけない。

ベン・コルブ君の事例では、

示談成立後、両親が担当医師に面会を求め、
父親が医師を抱きしめて「ベンは苦しみませんでしたか?」
DR「麻酔がかかっていたのでわからなかったと思います。」
DR 「ただ、自分の子供でも同じように対処したと思います。」
父親「われわれはこれからもこの病院にお世話になっていいのでしょうか?」
というやり取りがあります。

これ聞いていて思わず目頭が熱くなりました。

重要なことは、
1、情報の開示(隠蔽しない)と すぐに というタイミング

デマが飛ぶの理由は2つ、
 1。人々の関心が強い
 2。情報があいまいである。

デマが飛ぶと、後でデマだったと訂正されても受ける被害は大きい。
(政治的によく使われる手段ですね。)

2、原因が不明でも、起きてしまったことに対し遺族の気持ちを察し謝罪する態度

Compassionate communication(心のこもった対応)が一番大切です。

インフォームド・コンセントは、プロセスである。
医療の不確実性を医師と患者(と家族)が共有するプロセスです。
ともかく患者と話して下さい。と弁護士もいっているそうです。

3、なぜを究明し再発防止する ということでした。

医療はハイリスク産業であり、

To Err Is Human,

To Save The Next VIctim

1995年に起きた事故をキッカケに米国社会は、再発防止へ真剣に取り組み、JCAHO(医療施設評価合同委員会)の指定医院は2001年7月から全ての医療過誤を開示する義務を課せられるまでになった。医療過誤が社会問題になってからわずか6年です。

それと比較して日本の取り組みは余りにもひどい・・・・
訴訟でしか医療過誤を救済でいないシステムがおかしい。
医療はハイリスク産業であり、労災に準じた共済システムが必要である。

というのが李先生の主張でした。

-p.s.-

医療過誤の定義は、
 1。医療がプラン通りに行われなかったもの
 2。プランそのものが間違っていたもの
だそうです。

<補足>

1.JCAHO

JCAHOは、医療施設評価合同委員会で、医療機関に対する公的医療保険の適用認可権を有し、医療機関は、医療の質を高め監査に通る努力をしなければ公的医療保険の適用を受けられないそうです。

2.インフォームド・コンセントとはプロセスである。

李啓充「アメリカ医療の光と影」最後の一節より


 最後になるが、インフォームフォームド・コンセントと患者とのコミュニケーションの重要性を強調する一節を、ある文献から引用する。この論文の筆頭著者は法学者であり、法学者から医療者へのアドバイスという形を取っている。

 「われわれは訴訟社会に暮らしており、医師が訴訟を避けることを考えなければならないことは当然のことです。われわれ法律家が医師の皆さんに与えることができる最善のアドバイスとは、感受性と思いやりをもって振る舞い、患者を人間として遇しなさいということです。そして、何よりも重要なことは、患者と話すこと、一度だけでなく何遍も話すことなのです。インフォームド・コンセントとはプロセスだということを忘れないようにして下さい。インフォームド・コンセントのプロセスを実践する過程で、個々の患者の意思決定スタイルが理解できるようになるはずです。 そして、決して患者に決定を急かしてはなりません。忙しくて患者と話している時間などないなどと、決して患者に思わせてはならないのです。なぜなら、あなたがどれだけ多量の情報を提供したしても、もし患者が、「あなたには、自分と話す時間がないんだ」と思ったとしたら、その患者は、怒りの気持ちをいだくこととなるからです。 そして、「怒った患者」の別名は、「原告」というからなのです。」
           (Archives of Internal Medicine 156 p2521 1996)